綾辻行人の小説を読むのは本作品で3作目となる。
作者のデビュー作であり最も評価が高い『十角館の殺人』、アニメ化もされた『Another(上)(下)』に続いてだ。
普段小説を買うときは好きな作家の本を除き、ネットのおすすめ記事やAmazonのカスタマーレビューを参考に買うのだが、
今回は書店で何気なく綾辻行人のコーナーを見ていて何気なく手に取った小説がこの作品だった。
長編ミステリーを読むのは割と体力を使うため、読みやすそうな短編集があったのは個人的に嬉しく思う。
綾辻行人といえばミステリーの「新本格派」と言われミステリー業界の一つの潮流を作った人物であるが
以下、綾辻行人のデビュー以降の推理小説の一連の流れの総称である「新本格」の概要である。
戦時中、執筆を禁じられていた本格推理小説は、戦後、横溝正史の活躍や高木彬光、鮎川哲也などの新人の登場で復興を見せた。しかし1958年、松本清張の『点と線』がベストセラーとなったことをきっかけに、リアリズムを重視した社会派推理小説が台頭し、「嵐の山荘」「絶海の孤島」「謎の屋敷と胡散臭い住人」「暗躍する殺人犯」「名探偵」のような人工的な舞台・モチーフを用いた古典的な本格推理小説は古臭いものとして退けられるようになっていった。
しかし社会派推理小説も、推理味の希薄な作品の濫発により、60年代半ばには勢いを失う。70年代に入ると、角川映画の仕掛けた横溝正史ブームが巻き起こり、短命に終わったが探偵小説専門誌「幻影城」が登場して泡坂妻夫や連城三紀彦がデビューするなど、推理小説にかつてのロマンの復権を求める動きが生じていた。
そんな中、1981年に島田荘司が『占星術殺人事件』でデビューし、数少ない本格推理小説の書き手として名声を得る。その島田の肝いりで、1987年に綾辻行人が『十角館の殺人』で講談社ノベルスからデビューする。また同時期に東京創元社も国内ミステリの新刊の刊行に乗り出して新人発掘を開始。その結果、講談社ノベルスからは歌野晶午、法月綸太郎、我孫子武丸など、東京創元社からは折原一、有栖川有栖、北村薫、山口雅也などの作家が綾辻の後を追うように続々とデビューを果たし、上の世代から顔をしかめられながらも、若い読者の熱狂的な支持を得て、本格推理小説の人気が復興した。
そんな流れの中で、綾辻のデビューを仕掛けた講談社ノベルスが発明した、これらの本格推理小説を総称するレッテルが「新本格」である。
今タイトルの眼球奇譚は1995年に集英社から出版された短編集であり、
推理小説ではなく、ダークなホラー小説となっている。
妻の体から切断された部位が再生する「再生」
池で釣り上げた魚が異常な進化を遂げる「呼子池の怪魚」
拾ってきた人形が自分と入れ替わる「人形」
面白いのがすべての短編に「由伊」という女性が登場することだ。
この由伊という人物はそれぞれの作品で年齢も容姿も違っており、共通点や関連性はないように思える。
作者の遊びなのかなんなのか、作品の冒頭に「ー彼女らへー」との記述があるため
何らかの背景があることに間違いはない。
全ての作品が非常に読みやすく、中には少しグロテスクな表現もあるが、初めて綾辻行人作品を読む人にとっては良い選択なのかなと思う。