tyaba2書評

読書履歴としてのブログ

『パプリカ』筒井康隆

精神医学研究所に勤める千葉敦子はノーベル賞級の研究者であり、サイコピスト。彼女のもう一つの顔はPT機器(サイコセラピー機器)を使用し、他人の夢に入り込み、精神病、神経症抑鬱症状を治療する夢探偵パプリカだった。

PT機器だけでも画期的な装置であるが物語の中では、そのPT機器の上位互換版のDCミニという最新型が発明される。

世間にまだ公表されておらず、数台しかないこのDCミニを巡った争奪戦が人の夢と夢の干渉の中で繰り広げられていく。

 

物語の一番の読みどころといえばなんといってもパプリカの治療であろう。

PT機器で患者の夢に侵入し、他人の夢(記憶)を追体験したり、患者が目覚めてからモニターで夢の録画を視聴し、カウンセリングを行う。

DCミニが発明されてからはその悪用を防ぐためにパプリカは奮闘し、物語も加速度的に面白さを増していく。

終盤では他人の夢が現実世界にも影響を及ぼし始め、神話の世界の動物が出てきたり、夢の話なのか、現実の話なのか分からなくなったりと、少し読みづらいところもあるが、数ある筒井作品を代表する名作なのは間違いない。

 

筒井康隆の作品といえば近年爆発的にヒットした『旅のラゴス』が有名だろう。

発売日は1986年(徳間書店)だが(パプリカは1993年)1994年に新潮文庫から再発売されてからコンスタントに売れ、なぜか近年10万部を超える大増刷となった。

同じ筒井作品である『残像に口紅を』『時をかける少女』『ロートレック荘事件』といった、メディアで宣伝されたり、ドラマ化アニメ化されたというわけでもなく、面白いと噂が噂を呼び、まとめサイトやネットのランキングで取り上げられることが増え、爆発的な売上を記録した作品である。

この現象は新潮文庫アーカイブスでも「謎のヒット」として取り上げられるほど。

私も読んでみたが、一人の男性の生涯が書かれた大河的な作品で、ファンタジー要素も含まれていて確かに面白かった。主人公の生き方や考え方などが現代の若者の境遇にマッチしたのかと考えられなくもないが、発売から30年も経過し、時間差的に大ヒットする作品なのかといわれると疑問が残る。

 

『旅のラゴス』が現代社会にハマり、大ヒットとなるのであれば、それこそ今タイトルの『パプリカ』こそ鬱病、精神病が蔓延している現代において一つの可能性を提示する作品という意味で、さらにヒットしてもいいのではないかと思う。

 

 

「不安っていうのは人間の本来のありようだから、あった方がいいなんてハイデガーも言っているわ」

 

 

一度パプリカの治療を受けてみたいものだ。

 

 

 

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